モノや情報があふれ、いろいろなことが複雑で人工的になりつつある現代。
だからこそ、生き方や考え方はシンプルにしたい。
21世紀を生きる私たちに必要なのは、シンプルに徹すること、つまり「シンプルの極み」だと思います。
今、私たちの身のまわりには見た目だけがいいモノ、使いこなせないような機能を備えたモノ、意味のない装飾が付いたモノがあふれています。
しかし、本来、モノとは「人が使うため」につくられた「道具」。
大切なのは道具としての本質、つまり「人が用いるための機能」ではないでしょうか。
何のために使うのか、どうやって使うのか、そんな道具としての本質のみを追求した「モノ」はとても実用的です。
そして、余分な装飾がなくても、シンプルに徹したカタチには「美しさ」が感じられます。
私たちの博物館にあるチンクエチェントというクルマは、1950年代、イタリアの庶民にも手が届くクルマとして生まれました。
今では当たり前のエアコンも、ステレオも、エアバッグもないシンプルなクルマですが(ヒーターはあります)おとな4人が乗れて移動ができます。
クルマの原点は、人や荷物などを移動させるための「道具」であることを考えると、チンクエチェントはまさに「道具」としての機能を追求したクルマだと言えます。
シンプルだから不便なのではなく、シンプルだからこそ楽しくなれるクルマです。
たとえばエアコンがなくても、暑いときはルーフ(屋根)をオープンにすれば車内に自然の風が入る。
自分で心地よく乗るための工夫をし、自然を感じることで、人間としての本能や五感を働かせる面白さが得られるのです。
構造もシンプルだから、ちょっとしたメンテナンスなら自分でできるという喜びもあります。
進歩した現代のクルマにはない「ヒューマン・タッチ」な部分も感じられ、一緒に遊べる友だちにもなる。
クルマとは何かを教えてくれるなど、運転以外の楽しさをたくさん味わうことができるクルマなのです。
チンクエチェントというクルマは「シンプルの極み」であり、その存在に私たちは美しさを感じています。
チンクエチェントは、生産が終了して30年以上が経った今も現役のクルマです。
しかし、今後、乗る人がいなくなればいつかは消えてしまいます。
私たちがこの博物館を設立したのは、「チンクエチェントを残したい」という気持ちからでした。
しかし、私たちは展示することだけが保護・保存だとは思っていません。
現役のクルマとして、「道具」として使われることが、チンクエチェントの本当の意味での保護・保存につながる。
一人でも多くの人が乗り続けていけば、それだけたくさん残すことができると考えています。
だから、この博物館でチンクエチェントと親しんだら、できれば次はチンクエチェントの仲間になってほしい。
私たちは、そのためのお手伝いもしています。
また、この博物館では、庶民の生活の中にあるモノも集めています。
なぜなら、その中には、チンクエチェントのように暮らしに輝きを与えてくれる素晴らしいモノが多い、と思うから。
私たちはイタリアをはじめとする庶民の生活文化を紹介することで、心の豊かさや人間味を伝えていきます。
チンクエチェント博物館は、「チッタ・ナポリ」という海に囲まれたリゾート施設の中にあります。
ここに来て、時代の高速サイクルからちょっと離れて、リラックスした時を過ごしてみませんか。
そして、「シンプルで美しい」「シンプルで楽しい」チンクエチェントのような生き方・考え方を一人ひとりが見つけてほしいのです。
生きることを楽しむ「チンクエチェントな人」になる。
ここが、そのヒントとなり、原動力になれたら――。
そう考えています。